●登場人物
・ヒカルド艦長…USSエソタープライズ艦長、地球人。冷静かつ博学な指揮官
・ラタコー…USSエソタープライズ副長、地球人。少し女癖が悪いとの噂有
・メータ…USSエソタープライズ主任パイロット、アンドロイド。有能だが空気を読めないのが悩み
・モーフ…USSエソタープライズ保安主任、クリソゴソ人。勇敢な戦士
・ドーグ…地球侵略を試みる有機体と機械のハイブリット生命体。個別の意志をもたず集合意識をもって行動する。また異種族を瞬時に同化する。
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ピ~ヒャ~ピ~ヒャ~、パッパパ~パ~パパパパ~パパ~♪
Tunnels, the final frontier. These are the voyages of the star ship ESOterprise...
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「今日は死ぬにはいい日だ、カプラっ!」
愛剣バラトフを掴み飛び出そうとするウォーフ。それをヒカルドが制止した。
「待て、モーフ。ちょっと様子が違うようだぞ。メータ少佐、ましきが起動した装置を至急分析してくれ」
「艦長、わかりました。まききが起動したのは、HIDライトという21世紀初頭に使用されていた極めて原始的な照明装置です。彼はこれを鉛蓄電池という更に原始的なエネルギー源に接続して起動したものと思われます。これらは明らかにこの時代の原始的なテクノロジーでドーグとは無関係です」
ましきはドーグに同化されていなかった。早まった行動をとらずに済んでエソタープライズのクルー達は胸をなで下ろした。
「そうか、やはり彼らに敵意はなかったか。モーフ、あやうく彼を切り刻んでしまうところだったぞ。君の戦闘能力をもってすれば、彼と彼の装置は3秒もあれば原型をとどめていなかっただろう」
「はい、危ないところでした」
早まった行動をとりかけて恐縮するモーフ。
「ところで、彼らはいったいここで何をしているんだ… キーワードはズイドーか」
トンネルとニホン… ヒカルドの記憶の奥からふたつを結びつけるものが思い出された。
「問題は彼らのもつ精神風土にあるのかもしれない。トンネルの持つ文化的な意味は、、、そういえばニホンにはズイドーが登場する有名な文学作品があったな。あれは確か・・・」
こういう時にメータの頭脳は抜群の威力を発揮する。
「それならカワバタヤスナリという小説家の『ユキグニ』という作品のことだと思われます。私のポジトロニックブレインに全文がダウンロードされています。『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。向側の座席から娘が立って来て・・・』」
「ありがとうメータ少佐、非常に魅力的な作品だ。次回の朗読会では是非この作品を取り上げてくれ。楽しみにしているぞ。だが今は別のことに…」
メータを諭すヒカルドはひらめいた。
「そうか、わかったぞ。彼らにとってズイドーは違う世界へ通じる道の象徴だ。彼らはこの古ぼけたズイドーを探索することにロマンを感じているのだ」
「艦長、どういうことです?」
いぶかしげにラタコーが訊ねる。
「そうだな、例えて言うなら、我々にとって宇宙船は未知の領域を探索する乗り物だが、彼らにとってはズイドーがその役目を果たしているということになるかな」
「艦長、おっしゃっている事の意味がわかりません。ズイドーは地中の構造物で恒星間を移動する機能はありません」
不思議そうな顔をするメータ。
「いや、私が言いたいのはだな、メタファーなのだよ。ズイドーは異界に行くシンボルであって、単なる交通手段のひとつではないのだよ。そこが彼らにとってのズイドーの魅力なのだ」
そして素掘りのトンネルの内壁に手を当てるヒカルド。メータはそれを不思議そうに眺める。
「メータ。彼らの姿をよく見るんだ。たとえば、dooboongoo。彼はロープを使用しているが、初心者向けのマニュアルも片時として手放さない。明らかに初心者だ。慣れないロープを使用するのはさぞかし勇気の要ることだろう。そして、クイック・ミック。彼の姿はこの時代のビジネスマンのユニフォームだ。きっと彼は、ビジネスを放棄してここに来たのだろう。貨幣経済の段階にあるこの時代にそれは生活を破綻させかねない行為だ。よほどの情熱がなければ出来ないことだろう。そして、隧酷険は土木の専門家に見えるが、ここは明らかに土木工事の現場ではない。彼も職場放棄してきたのだろう。それから、ましき。彼がクレイジーなのは君にも明らかだろ」
ヒカルドを真似てメータもズイドーの内壁に触れてみる。しかしアンドロイドの彼にはヒカルドの気持ちが理解できない。
「幅員は平均2.386m、高さは平均3.082m。しかし断面の形状は極めて不均衡。ズイドー内の全容積はエソタープライズの2.385パーセントに過ぎません。これが宇宙船と比較しうる値があるようには思えません」
「メータ、いつか君にも解る時が来る。今は彼らの情熱をしっかり受け止め記憶にとどめるんだ」
教え諭すようにメータに語るヒカルド。
「彼らも戦士の魂を持っているのか… カプラッ!」
いつしか4人の地球人に親近感を覚えたモーフ。
「俺も未知の穴を探検するのは大好きだぞ。ただし…」
この期においても、まだニヤケるラタコー。
(第5話に続く)
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新スタートンネレック 第4話
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